さて、着物の弱点シリーズも三回目となりましたが、あんまり粗捜ししてもつまんないので、省スペースの現代における不便さをテーマに締めたいと思います。
それは「着物は巨大なワンピース」という点です。
分離できない大きな単位というのは、現代において大変不便な要素です。
まず、収納スペースが洋服に比べて確保しにくいはずです。
畳んだ長着一枚で、Tシャツ数枚分あるいはスボン2~3枚分程度のスペースを要するのですが、上下別々に分けて収納できる洋服と違い、着物は必ず長着一枚でこれだけの容積をとるため、収納の最小サイズが洋服に比べてかなり大きくなります。
しかも決まった畳み方で圧迫のないようゆとりをもって収納しないとシワができ、シワをアイロンで直すにも、都度、大きな面積に対して作業を行わねばならないからそのぶん手間もかかってしまうことを考えると、予め大きな収納を用意しておくことがストレスなく着ることの条件となってきます。
なお、畳んだ着物の横幅は衣装ケースの幅とほぼ同じで、長さはその奥行きの8割程度。
そんなわけで僕は引き出し式の衣装ケース二箱を手持ちの着物の収納として使っています。
二箱にした理由は、絹・綿を虫食いしやすいウールと別々にしなければならないという素材的な問題からなのですが、それぞれの箱の余剰空間はそのままデッドスペースになってしまっています。
ここにそれぞれの素材に応じた足袋や帯や小物を収納する手もありますが、あまりスマートではありません。
長着一着ならば衣装ケースを用意するまでもありませんが、襦袢や羽織などが増えていくことを考えると、着物を入手する前にそれをしまっておける場所があるかを確認しておくのが先かもしれません。
また、分離できない大きな衣類というのは部分的な取り替えがきかないリスクがあります。
仮に食事中、袖に小さいながら取れないシミがついたとしましょう。洋服だったらシャツなりブラウスだけの被害ですみ、ズボンやスカートは別の服と合わせられますが、着物の場合は全体へのダメージ。汚れの内容によってはその着物自体を着ることがはばかられてしまうことにもなりかねません。
一つの反物から一つの着物が作られる一点ものの長所が、部位ごと取替の利かないという弱点になるのです。
したがって、こういう過程を経たキズものは、リサイクル市場によく流れています。
それにともなって洗濯についても注意があります。
僕はウール以外はネットに入れて洗濯機で洗ってしまいますが、言うまでもなく干すのに必要なスペースが広いのです。
T字に広げた状態で干す必要があるため着物を広げた最大サイズは、丈と両袖の端から端までそれぞれ140cm以上あり、幅の確保はもちろん、低めの物干し台だと裾が下に着いてしまうので、二本目の竿を用意して、一度長着をその間でたわませてから干すような工夫が要ります。
他にも「大きい」ことで生じるデメリットが色々あり、男着物については、着付けよりも保管や取り扱いのほうがずっと大変だと思います。
ただ、それらすべてをスマートにこなすことで、着物には洋服では絶対に味わえない愛着を感じることができます。
脱いだ着物を汗抜き干し、優しく洗って(洗濯機の手洗い/おしゃれ着モードでOK)、太陽の光を当てて水を抜き、最後に四角くたたんだとき、「着物の主人」としての実感は最高潮に達します。
これは着ているだけでは感じないもの。ですからレンタルなどでは着物との一体感は薄いのです。
面倒な取り扱いに手をかけても大切に扱おうというモチベーションは、人の親やペットの主人としての自覚に通ずるものがあります。
さて、これまで三回にわたって着物の不便さを紹介しました。
洋服に比べて不便さは否めませんが、かつてはこれが日本の普段着で、ご先祖たちにとってこれがすべて当たり前だったのです。
現在は何をするにも着物では不便さが目立つ世の中かもしれませんが、そんな世の中だからこそ、着物を上手に着こなして闊歩することに強さや美しさを感じるのです。
衣類の変遷を通じ、変わってきた世の中を見ていると、日本がなくしたものや取り返さなければならないものが見えてくるかもしれません。
たとえ洋服に機能は劣っていても、そこに着物を着る意義があるのです。
【関連】
着物の弱点[1] -環境編-
着物の弱点[2] -時間編-
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2013年11月26日火曜日