2013年8月28日水曜日

男着物の履物


 現代では着物に靴を合わせる上級着こなしを披露するつわものもいるようですが、やはり着物によく似合う履物は雪駄(セッタ)下駄(ゲタ)です。
そして男のおしゃれは足元からというセオリーは着物も同じく、履物で見栄えはかなり変わります。

とはいえ、こだわればきりがないのも靴と同じなので、ここはブログのポリシーに従い、安くて素人にやさしいものから紹介します。


まず、商店街の古い履物屋に行ってみましょう。
靴屋ではありません。"履物屋"です。歴史のある古い商店街にはたいてい一軒はあります。

すると、店頭に数千円のものが、天井から字のごとく「吊し」で売っているはず。基本的にはこれでOKです。
この場合、M/L/LLなどおおまかなサイズから足袋ばきの足に合わせて選ぶことになり、鼻緒と足の甲のフィット感が若干きつく、かかとが土台からやや外にはみ出る程度のサイズがかっこいいとされています。

ここで一つ注意。
雪駄を固定する鼻緒は履いてるうちに若干伸びてくるので、少しキツ目のものを選ぶのですが、それでも限界があり、無理に履いていると足を痛めてしまうことがあります。
そんなときは履物屋さんに、足裏の溝から鼻緒を「すげ」て調整してもらうのですが、吊るしの雪駄は高い確率で「すげ」のための溝が省略されて作られているため、鼻緒の調整が利かない場合があるのです。

もちろん既成の状態で鼻緒がジャストフィットしているなら「すげ」は不要ですが、「すげ」がきくものであれば万が一足のサイズに合わなかったとしても安心。
その見分け方は、裏地の親指/人指の間および土踏まず/かかとの間に二箇所にめくれるような溝が付いているかどうかです。(下図参照)

「すげ」が利くものになると、吊しではなく箱入りになっている事が多く、値段もワンランク上だったりします。土台の質もいいし、場合によっては鼻緒そのものを別に気に入ったものに「すげ」替え、長く使うことができます。こういうものを探すときは、履物屋さんに直接尋ねるか、着物屋さんに行くといいでしょう。

どちらが良い悪いということはありません。
履物は着物に比べて消耗品的な性格なので、吊しから安いものを選んで繰り返し経済的に履いてもいいし、品もサイズも自分に合った一足にこだわるのも自由です。

その他のメンテナンスとしては、裏地の減りの早いかかと部分の定期的くらいでしょうか。
どちらも履物屋さんでやってもらえるはずなので、購入の際は問い合わせてみてください。

なお、鼻緒の擦過傷はサイズが合っていても起こることがあるので、ミニサイズの絆創膏を持っていれば怖いものなしです。

もっとこだわりたい場合は、鼻緒と土台の部分を別々にオーダーし、足に合わせて職人さんに「すげ」てもらいます。着物でいう「誂え」ですね。
当然値段も青天井ですが、そういう履物にはびっくりするような個性を放っているものがあり、いつかこういう一足が欲しいと思いながら僕もたまに高級店を覗いています。

一方、下駄については構造上、ほぼすべての品物が鼻緒を取り外せるようになっているので「すげ」に関する心配は無用です。
値段も雪駄に比べると安く、1000円くらいからたくさん出回っているので非常にお手頃。
浴衣に合わせる夏仕様というイメージがありますが、雨天時は水に弱い雪駄の代わりに履くこともできるスグレモノです。
「歩くと音が鳴る」ため、ホテルなど、静かでかしこまった場には履いていけないことにだけ注意。

雪駄とともに一足ずつ財布と相談しながら選んでおけば、とりあえず通年の履物には心配要りません。

2013年8月26日月曜日

吉祥寺 ゆめこもん

 今回紹介するお店は、以前、着付け会で知り合った中村さんが今年オープンしたゆめこもんさんです。
場所は吉祥寺駅の南、マルイ西横の道をもう一本西に入った閑静な住宅街にあります。


白壁のゆとりある店内は、着物屋というよりもアパレルのセレクトショップ。
価格帯も非常に手頃で、玄人向けの高級品ではなく、誰でも手が届くようなエントリーモデルや現代風に着こなしをアレンジできそうな小物を中心に揃えています。



男性ものは敢えて安価で扱いやすいポリエステル(6000円くらい)が並び、つるしの浴衣とあわせても1万円台なかば。通常のアパレル浴衣よりもだいぶ安く購入できます。
浴衣シーズンが終えたら、今後はリサイクル品も増やしていくとのこと。


その理由は、着物に興味を持った若い人に最初に訪れて手軽に味わってほしいという、当ブログと非常に近い方針だからです。

中村さんも長く呉服屋に勤めたとかではなく、趣味が高じて開いたお店なので、初心者目線でお話しでき、また、奥様も浴衣の着付けから勉強しているということなので、我々素人としてはとても入っていきやすい雰囲気。

お邪魔した際は、同じ目線で素人着物の話に花を咲かせることができました。

そのなかで、中村さんに、超初心者用として着物一式を最低限価格で揃えるといくらくらいでできそうか、を尋ねたところ「リサイクル品を織り交ぜれば、男性で1万円、女性で2万円」ということでした。
骨董市での入手などを除く通常店舗での販売だと、長着・襦袢・帯・足袋・雪駄で1万円というのはかなりタイトな数字だと思いますが、もしも実現できたらすごいことです。
もしめどが付いたら初心者用に「danchakuセット」などを企画提案できないかな(笑)

中村さん曰く「今までの着物屋とちがった個性的で楽しい店にしたい」ということで、拙作着物女性作品『和美-wabi-』シリーズのポストカードを飾ってもらうことにしました。
ちょこっとですが在庫も預けてきたのでご希望に応じて販売してもらえます。

「着物に興味があってちょっと実物を見てみたい」あるいは「着物のイラストでも見てみようかな」と思ったら、吉祥寺のお買い物ついでにぜひ立ち寄ってみてください。
「柴山さんのブログを見て」とお伝えいただければ、中村さんも得心してくれます。

裾野広く着物を楽しめる文化を作りたいという点で合意しているので、これからのお付き合いが楽しみです!


【ゆめこもん】
営業:11:00-19:00(水曜定休)
電話:0422-41-0321
所在:東京都武蔵野市吉祥寺南町1-15-16
http://yumecomon.com/

2013年8月20日火曜日

【実践1】 「着物の店」に慣れよう!

 今回は、超素人が着物を始めるために具体的にどう行動したらいいかを、僕の経験をもとに説明しましょう。
なんと、今あなたがこの記事を読んでいるところからの開始です!

 まず、Google (https://www.google.co.jp/)を開いてください。
キーワードに"自分の住まいの最寄り駅"と"呉服店"あるいは"着物店"などを入れて検索すると、たいてい何かしらの着物関係の店が出てきます。
それがびっくりするほど近所だったりと、この段階で知ることもあります。どの町にも意外と呉服屋というものがちゃんと存在していて割と普段前を通り過ぎるのですが、着物に興味持ってないと目に入らないということが多いのです。
店のwebサイトがなくとも、現在は電話帳のように住所だけでもいろいろあるはず。最寄り駅で出てこない場合は、近くの別の駅でお試しを。

次にGoogleMap (https://www.google.co.jp/maps/)などの地図サイトを開きます。
先ほど目処を付けた店の住所を入力して所在を確認したら、コンビニに行くような格好で結構ですので外着に着替えてください。
そのまま部屋のドアを開け、外に出ます。先ほどのお店を目指し、のれんをくぐってしまいましょう。

当然のことですが、本当にこれが着物を始める第一歩なのです。

そのとき大事なのはたった一点。
恥ずかしがらず「自分は着物初心者でーす!」ということをおもいっきり全面に出すこと。

「何をお探しでしょう」とか訊かれても「友だちに勧められて興味を持ったんです」とか「彼女が着物着てて、自分も勧められて…」とか、飽くまで主体性薄く、かつ"今すぐほしい!"とは思われない回答がベスト。
お店の方も、初心者がいきなり何万・何十万もするものを買うとは考えませんので、この点を強く印象付けるのが重要です。

そして、敢えて着物について無知であってください。ヘンにかじった知識をアピールしてはダメです。ゼロからぜーんぶ、お店で説明してもらうくらいのスタンスが適切。素人丸出し・無知な着物初心者でいいのです。
まともなお店ならこちらの希望をヒアリングしてくるものなので、ここで普段からの着物に関する疑問を全部訊いてしまいましょう。値札なんかを見て「うわあ!やっぱり高いんですね~(笑)」と驚きながらのオーバーアクションするくらいでいいです。
本当にこちらが初心者だとわかれば、お店のほうもいろいろと教えてくれますし、実際、僕の素人かじりのブログよりも正確な知識を得られる機会になると思います。
お店によっては商品を触らせてくれたり試着させてくれるかもしれませんので、その際は遠慮なく体験しましょう!
着物は非常にデリケートな品物なので、細心の注意は払ってくださいね。

そしてもちろんその場で買うということはしなくて結構です。むしろしないでください。今回の目的は購入ではありません。
基本的には「着物っていいですね~」と着物を褒めつつ「検討してまた来ます」と店を出ます。

で、これを複数のお店で何度か繰り返します。
着物に慣れるにはまず、着物のお店に慣れることが必要。今回の主旨はそこです。

何度か入店を繰り返すと、店員との掛け合いや符丁、また、お店によって取り扱うものや値段の差など、かなり個性があることが分かります。
接客の良し悪しもポイント。場合によっては例のエントリのような嫌な目に遭う可能性もありますが、自分は「商品の購入意欲が少しなりともあって店を訪れている客である」という、当然のことを自分が気に留めていれば、相手がどんなに失礼であっても「この店はひどい接客だな。大したことないや」と客観的にスルーできるのです。
もちろんそんな店には二度と行かなくて結構。「次、行ってみよう!」というポジティブさで、別のお店に入り、自分なりの「お客力」を積んでみましょう。


やがて、出かけた先にある着物屋にふらりと寄れるようになっているはずです。こうなればしめたもの。
多くのサンプルから、どこが自分に合った店なのかどうなのかが、だんだんと感じ取れてくるのです。

やがて最初の足がかりの店が見つかり、そこで最初の一着を購入した後、その店に足りないものを別の店で見つけたり、とりあえずのものでは物足りなくなってより良い物を手に入れたいと、別の店に頼ることができるようになっていくのです。

次回はいよいよ具体的な購入の考えについて書きますよ!




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2013年8月8日木曜日

浴衣下着にAIRism

 僕の一番気に入っている浴衣は麻の白無地なのですが、襦袢を着ないため当然のごとく下着が透けてしまいます。

恥ずかしながら、洋服着用時にはそういうことを気にしたことなかったので(男物で薄手の白いボトムスってありませんよね?)僕は白い下着って持ってなかったんですよ。

着物男子たるもの周囲にみっともない印象を与えてはなりませんし、これを機に調達することにしました。

ステテコでもいいのですが、夏はやっぱり出来る限り肌を覆う布は減らしたいものです。
そこで選んだのが毎度おなじみユニクロのAIRismのボクサーパンツ
ユニクロにしてはちょっとお高めの1枚990円ですが、これはいいですよ!


ほんとサラッサラで、履いてないみたいな開放感!うっかり本当に履き忘れたんじゃないかと不安になるほどに!
洗って干してもすぐ乾くので、二日続けて浴衣を着る場合も一晩で洗濯と乾燥が終わるので便利です。

冬はヒートテックで夏はAIRism。まったくユニクロ様様。
柄物の浴衣の下でも問題ないし、ステテコや深いVネックもあるので秋口まで使えそうです。

 同じ生地でふんどしも出してくれないだろうか。
『Jpananese Antique Under Style』とか『-Fundoshy-』とかね。


AIRism(メンズ)公式ページ
http://www.uniqlo.com/jp/store/feature/uq/airism/men/

2013年8月6日火曜日

アパレルの浴衣

 ちょうど浴衣についてのお話をしたところなので、妻の買い物に付き合いついでに僕も珍しく中古着物屋さん以外の売り場を見て来ました。
場所は近所の北千住マルイに入っているメンズフロアのテナントです。


 やはりこの時期には最前面にずらっと並んでいますね!
しかも今時の若い人に合わせてか、かなり丈の長いものがあり、ちょっと壮観です。

素材は、ポリエステル・綿・麻および、その混合で仕立てられたもの。ポリエステルはパリっとしてて、ちょっと見、正絹の艶にも似てます。
価格帯は12000~36000円程度。結構開きがありますが、それは生地の差(ポリエステル<綿<麻)と、もう一点は縫製の差みたいです。

着物はそもそも全て手で縫う和裁で仕立てられているべきというのは以前説明しました。
江戸時代以前にはミシンなどなかったし、当然ですよね。
和裁は手作業で縫い目を限界まで目立たなくできる美しい縫製です。しかし当然手間がかかるため、現代では目立たないところにミシンを使うことで人件費を抑えてコストダウンを図ります。
よって、安いものほど縫い取りの部分にジーンズの裾上のような縫い目が見えてます。


逆に高いものは目につくところだけを手縫いにし、ミシン縫いの部分もできるだけ隠れるよう仕立てられています。前者も色によって(暗めのもの)はあまり目立ちませんけど、全て手縫いの品物は、目を凝らさないとどこを縫ってあるのかわからないくらいなのです。


 次に帯。
こちらに並んでいるものはすべてポリエステル製です。ポリエステルは御存知の通り手軽に取り扱える便利な化学繊維。鮮やかかつ面白いデザインが豊富で、何より安価です。
帯生地としては滑りやすくて結びがほどけやすいという欠点がありますが、汚れてもすぐに洗えるので、花火大会で屋台の食べ物がこぼれたりしても比較的安心です。価格帯は5000円~くらい。

あとはそういう欠点を根本的に解決した作り帯も揃ってます。
これは結び目を最初から造形してあるので崩れるということがないし、何しろマジックテープ留めなので圧倒的に素早く着付けられるという点が魅力です。僕も数年前に花火大会に着るだけの浴衣着用の際は使っていました。
男着物の取り扱いの一番のハードルである帯結びを省いて最初はこれを使って手軽に楽しみ、ちょっと凝りたくなったらポリエステル帯で結びを楽しむという流れがいいですね。


さらに売り場には着付けや手入れが書いた無料冊子が置いてあり、これがすごくわかりやすくて「今夜お祭りに行くために欲しい!」って人も早速浴衣を楽しめるでしょう。量販店はこういうものを作れるのが強みですね。

今回、ポリエステル地が目立ちましたが、これは扱いやすさ重視のセレクトでしょう。
麻や綿もいいですが、ポリエステルのパリっとした風合いにモダンな柄が入っている方が若い人は喜ぶかもしれませんし、初心者として手軽かつクイックに浴衣を楽しむならばこういう所で買うのもアリ。

また、アパレルは広いお客さんに対してファッションの一つとしての浴衣を提案しているためか、浴衣選びを洋服と同じ感覚で店員さんに相談できるのが大きいです。
呉服屋さんははじめからお客にある程度の知識を要求するところもあるので、完全にド素人として手堅く着物の第一歩を踏むために、この季節の百貨店を選ぶのはお勧めです。


 ちなみに僕の浴衣は地元裏通りの小さな呉服屋さんで買ったもの。
着物勉強に出入りしていて顔なじみになったところ、今回、倉庫にしまってあった売れ残りを2000円で売ってくれたのです。
白無地でやや地味であるものの、麻100%で全て手縫い。とても気に入ってます。
もちろん古着屋なら、なんと500円程度からあるので、いずれいいものを着るためにまずは練習着が欲しいというなら最適です。

手前味噌ながら僕の2000円の浴衣はマルイに並ぶものよりいいものだと自負しています。とてもいい買い物だったということです。
ただ、裏通りの呉服店に飛び込みで入っても、店主はそれを出してきてくれなかったでしょう。顔をつないでおいた馴染みの特権です。
また、古着屋のものはたしかに安いのですが、安いのには色々理由(ほつれやシミなど)があるので妥協点を探る"目"は要ります。
最初は百貨店でも、いずれは知識と足を使って、安く、いいものを手に入れたいですね。
(←このブログのコンセプトです)

ひとくちに浴衣と言っても、並ぶ品も市場も様々ですが、自分なりの方法で自分に適した一着を手に入れたら、お祭りや花火だけなんてもったいないこと言わず、散歩や買物にもガンガン着て楽しみましょう!


【北千住マルイ ゆかた売り場】
営業:10:30-20:30(夏季のみ)
電話:03-5244-0101
所在:東京都足立区千住3-92 5-8F
(北千住駅直結)
http://www.0101.co.jp/topics/12summer/yukata/

2013年8月5日月曜日

素人と玄人の狭間

 先日遭遇した出来事を書きます。
書こうか書くまいか悩んだのですが、やはりいろんな人に知っておいて欲しいと…。

それは、かねがね、いずれ行ってみようと思っていたある着物のお店でのことでした。
店構えは小さいものの小奇麗で、時節柄、浴衣を求めに来たと思われる2組のカップルが既におり、店内は賑やかでした。
店員は二人おり、一人は接客、一人は商談中。そんなわけなので接客している方に開口一番「何を探しに来たの?」と訊かれても「見てるだけです」とは言えず、あったらいいな、と感じていた品物を口にしたところ「そこにありますから」と品が積まれている棚を指さされたので自分で手にとって見ていました。

問題はその後入店してきた若い男性2人と店員のやり取りです。

2人もやはり「何を探しに来たの?」と訊かれ「着物を…」と答えました。
この瞬間、あ、彼らが探してるのは着物じゃなくて浴衣なんだろうな、と感じました。
2人は大学生くらいの風貌だったし、季節柄、入店のきっかけはお祭りや花火じゃないかと予想したのです。
自信のない言葉端からも"浴衣"を"着物"と勘違いしているのでしょう。案の定「今夜お祭りがあって、そこに着て行きたいので」と続けました。

すると店員は「え?今夜?それはちょっと…それにお祭りって、それ、浴衣でしょ?」とまくしたてます。
若者たちも「そう…かな?」と戸惑うところに再び店員は「予算はおいくら?」と強く訊き、気圧された若者は「1万円くらいで…」とさらに小さな声で答えました。

普通のお店では、まともな着物が1万円で、しかも(誂えたら)その日中には買えないってことを認識したのは、僕でもまだ最近ですから、浴衣と着物を同じものだと思っている間違い無く初心者の若者にとっては仕方ないと思いますけど、初めて着る嗜好衣料品に1万円というのは妥当な予算だったとも思います。

しかし店員は「それじゃ着物は無理ですね。浴衣でも、店の表にセールで出しるものくらいしかないです。そこで選んでくださいね」と言葉面からは伝わらないぶっきらぼうさで、僕の恐れていた対応を若い二人にぶつけたのです。
二人は店に入れもせず、すごすごと外に出て行きました。

他人ごととはいえものすごく嫌な気持ちになり、僕も妻の手を引きつかつかと店を出ました。
置いてある品物はとてもよかったのですが、ホント最悪です。

なぜなら、僕ら着物初心者が、着物という世界に踏み込むのにあたって最も怖いのが「金も知識もないくせに何しに来たの?」という嘲笑と卑下の扱いだから。

今では、まともな着物にお金がかかるのも当然と知りました。
そして、とても奥深く、一朝一夕では知り尽くせない世界であることもおぼえました。

しかしそれは、おずおずと手を伸ばし、手に届くものを引き寄せ、ゆっくりと勉強をしながらようやくわかってきたこと。
着物に興味を持ってその第一歩を踏み出した素人に先人が放つには、先の言葉はあまりに残酷ではないでしょうか。

残念ながら、僕らもこれまで着物関係の店をまわってみて、少なくない割合でこういう態度をとられてきたのです。
着物という商材の性質を考えると、確実に買ってくれる上客に接客リソースの全力を傾け、そうでない素人はできるだけ遠慮して欲しいという事情は察しないわけではありません。
ただ、誰もが最初は素人で、着物を始めたいという潜在的欲求を持っている人もほぼ全員がその素人。
そして素人知識ではよくわからないものにいきなり何万円ものお金を払えるはずはありません。
先のお店も、むしろ商売を考えたうえで、これから上客になる可能性のある若者に対し予算感や用途に合わせた品選びの相談に乗って"投資"してあげれば、お互いに気持ちよく接することができたと思うのです。

着物を始めたいという潜在的欲求を持っている人は世間が想像しているよりずっと多く、僕が「着物をはじめました」とアピールし始めてから、着物へのエントリー手段を実によく相談されます。
その相談を身近な店舗でなく僕に向けているのは「高価、難しい、敷居が高い」という先入観と事実の混じったイメージと、先のような扱いが「怖い」という感情に搦められて第一歩を踏み出せないでいるからです。
その第一歩を「お祭りを格好から楽しみたい」と純粋な動機で踏み出した若い二人は、今日、着物に対してどんな印象を抱いたか…。
惨めだったと思います。悔しかったと思います。そしてとても悲しかったと思います。
自分に重ね合わせた瞬間、いたたまれなくなって店を出たので、彼らがあの店で浴衣を買ったのかどうかは知りませんが「"もっと親切で安く浴衣を買える店もあるよ"と教えてあげればよかった」と後悔しました。そういう目的でこのブログを始めたのだから。

僕の知っている着物愛好家はほとんどが僕と同じくリーズナブルかつ気軽な着物生活を楽しむ人々ですが、普段から着物を着用しつつ長く正統な造詣を深めている人たちもおり、そういう人々から勉強させてもらっている機会も多いです。前者からは仲間意識と身近な情報を、後者からはこれから向かう先の道案内をもらって、両者のお陰で着物生活を楽しむことができていると感謝しています。
そんなわけで、未だ素人の域を出ない僕の目線からも、かつて普段着だったはずの着物は、今ではひょいと始められるものではなく、いろんな方法と切り口できっかけを得て、周囲からもらったもので少しずつステップアップし、やがては伝統的な知識と価値観を知っていくという段階を踏んでいくものだと思ってます。

現代における着物の文化は、言ってみれば様々な水質の多くの源泉から流れていく素人が、時を経て自然と玄人達の形作った大きな流れと一つになる川のようなものではないでしょうか。

すでに本流を流れる玄人たちには、源泉の水質が違うとか汚れているとかそういうことで同じ方向に流れる素人を拒否せず、優しく迎え入れてあげて欲しいというのが、本流を目指すまだまだ小さな支流の僕の願いです。


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2013年8月2日金曜日

浴衣ってなんだろう?

 街を歩いていると、ふだん着物を取り扱わないような衣料品店にもずらずらと浴衣がディスプレイされ始めましたね。
普段着物を着ない人々もこの時期には浴衣に進んで袖を通します。ある意味、現代における着物の季節と言っていいでしょう。

では浴衣ってなんだろう?
それをちょっと調べてみました。

浴衣はそもそも「湯帷子(ゆかたびら)」といって、水浴びや湯浴みの際に着たものらしいです。江戸時代以前は今でいうサウナのような蒸し風呂が一般的だったので、素っ裸である必要はなかったんでしょうね。

というわけで、後年になっても浴衣は朝夕の部屋着としての扱いでした。現代でいうパジャマです。だから旅館や民宿では寝間着によく使ってるんですね。



ポイントとしては、そんな由来から着物の中では最も格が低く公式な場には一切着て行けないってことです。
若い女の子が一昔前まで考えられなかったくらい肌をまろび出して街を闊歩しても誰も変だと思わないこの時代では、浴衣も夏のお出かけファッションとして認知認められているためカジュアルに限ってはおおっぴらに外を歩くことができますが、立ち位置としてはジーンズファッションみたいなもの。ドレスコードがあるようなレストランや行事には不適切です。

でも浴衣と普通の着物って見た目はそんなに違わないように見えますね。どこが違うのでしょうか。

妻に訊いたところ、"単衣(ひとえ)"と呼ばれる最も単純な着物と作りは変わらないとのこと。
違うとすれば素材くらいらしいです。浴衣には、綿・麻・ポリエステルが用いられ、絹で作ったものは浴衣と呼ばずに「夏着物」と位置づけられます。
浴衣は長着と帯とゲタの三点でOKですが、夏着物の場合は他のシーズンと同じく長着の下に襦袢を着、足袋も履くとのこと。
その代わり、後者は浴衣よりも格上なのでいろんな場への出入りできます。

夏にアウトドアで遊んだり散歩する程度なら浴衣。ある程度かしこまった場に行くなら夏着物という具合に使い分けるとスマートですね。


でも構造が"一重"と同じであるなら、綿・麻・ポリエステルで作られた「着物」と違わないのでは?というとこれもちょっと違うみたいです。
そこはもう少し詳しく調べてみました。例の早坂伊織さんの本で!

厳密にはここでは割愛しますが、染め方や細かい仕立て処理で「浴衣」と「着物」にはやはり明確な違いが存在しているようなんです。
一重の着物とそんな大きな違いがないのなら冬に着ても同じように見える、と思うかもしれません。僕もそう思ってました。

そこで想像してみてください。お相撲さん(特にまだ新人た付き人くらいの)が普段着ているのって浴衣なんですが、アレが着物と同じかっていうと、やっぱり見た目からなんか違うと思うんですよ。
模様でしょうか?あるいは襦袢や足袋がないから?
うまく説明できなくても、やっぱりどこか違和感を感じますよね。

決して悪いってわけじゃないけど、冬に浴衣を着るというのは冬に半袖の薄着で出歩くような違和感があるんです。主にそれを見る周囲の人間が。

着物には「周囲に不快な印象を与えてはいけない」という意義が存在します。
自分は良くても周囲に変だと思われる身勝手な着こなしは、着物においては避けたいものです。

とはいえ、現代ではそれすら斬新な着こなしとして遊べる可能性があります。
作家の鴨志田直樹さんは、着物ライフの中で色々試した結果、年中浴衣を愛用しているということです。涼しくなってくると、その下に襦袢やタートルネックなどを重ね着するそう。
浴衣生地は洗濯もしやすいし軽いので、普段着としては最適なのかもしれません。

それに浴衣というのは市場的に男性物もいろんな種類が手頃に売りだされていますから、本当に練習として着つぶすにはもってこい。
古着屋さんでは僕の経験上、最安で500円からある、最も初心者向けの品なんです。


この夏、浴衣への造詣を深めた上で、改めて着物の入門としてチャレンジしてみませんか?